小さな会社の経済圏の作りかた 〜クロスセルとアップセル〜

クロスセルとアップセルは“経済圏づくり”の入口になる

クロスセルは関連商品を一緒に買ってもらう手法、アップセルはより上位の商品を選んでもらう手法と説明されることが多いですが、実はその先にもっと大きな可能性があります。

東急グループが沿線住民をグループ内で回遊させる仕組みをつくり、楽天が顧客データとグループ企業のサービスを束ねてカード、金融、モバイルといったサービスを次々に繋ぎ楽天経済圏を形成しているように、クロスセルとアップセルは、お客様の生活や行動を自社サービスで連続的に繋ぐための重要な技術です。

経済圏とは、顧客が複数のサービスを継続的に利用し、企業内で価値が循環しながら利益を生む仕組み。しかし、これは巨大企業グループだけの話ではありません。規模は違っても原理は同じ。中小企業でも、規模に合わせた“スモール版の経済圏(プチ経済圏)”をつくることができます。

メインサービスを軸に“前後のニーズ”をつなぐ

大企業の経済圏に共通するのは、お客様の行動の前後にある困りごとを丁寧に拾っている点です。これは中小企業でも応用できます。たとえば髪質・住宅・自動車など生活に関わるものは時間とともに変化します。

LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)は、お客様の一生涯のライフタイムに沿って価値を届けることで積み上がる利益のこと。その視点を持てばクロスセルの幅が一気に広がります。

  • 美容院:カットに加え、ヘアケア、着付け、写真撮影など行事需要をクロスセル
  • 工務店:家を建てて終わりではなく、庭のメンテナンス、クリーニング、リフォームをパッケージ化
  • 自動車整備工場:修理だけでなく、車検、保険まで一連のニーズをカバー

お客様が商品を購入した「直後・中期・長期」で必要になるものを先回りして提案することで、「この店は自分のことを分かってくれている」という強い価値が生まれます。

クロスセルの先にアップセルがある

プチ経済圏では、単に商品を増やすのではなく「文脈」が重要です。

クロスセルで接点を増やし、アップセルで信頼を深める。この流れが経済圏の基盤になります。

  • 特別感のある提案:「いつもありがとうございます。あなた向けのプランです」とプレミアム感を演出
  • 複数利用者への上位提案:複数サービスを使う顧客に「まとめた方が得で質も高い」上位プランを提示
  • 出口の質を高める:高いプランを選んだ後のフォローを手厚くし、「頼んでよかった」と思わせる

クロスセルは離脱を防ぎ、アップセルは収益性を高めます。

この両輪が回ると、少ない顧客数でも高い利益率と安定性を実現できます。

参考文献
 

フィリップ・コトラー、ケビン・ケラー「マーケティング・マネジメント」(丸善出版部)

佐藤尚之『ファンベース』(筑摩書房)