人の心に潜む揃えたい欲求を利益に変わる
ディドロ効果のメカニズム
人は生活の中に理想的な新しい価値を取り入れると、それに合わせた生活環境を求めて消費を繰り返します。これがディドロ効果という消費行動です。
1950年代後半から高度成長期にかけて、洗濯機や冷蔵庫といった電化製品は豊かさの象徴でした。
人は洗濯機を手に入れて洗濯時間を短縮できれば、次は食材を長く保存できる冷蔵庫が欲しくなります。
その理由は、便利な電化製品で新しい価値を得ると、それに合わせて生活環境を整えようとする心理が働くからです。
当時、家電の大手ナショナルは「みんなうちじゅうなんでもナショナル」、東芝は「みんなみんな東芝 東芝のマーク」と同じ主旨の宣伝を展開していました。
これは、人の心に潜むディドロ効果を、見事に突いた販売戦略といえます。
お客様が製品やサービスの価値に満足すれば、その価値を基準にして新たな製品を購入する好循環が生まれます。このリピートによる好循環が収益を生む源泉になります。
人はみな 心にディドロを 飼っている
新しい知識を得ると、また、新しい知識を習得したくなるのが人間の欲求です。人々の欲求を満たすためにフランスの哲学者ドゥニ・ディドロ(1713-1784)は、哲学、政治、科学など学問のすべてを網羅した『百科全書』を編纂します。
ところが、私生活では高価で美しいガウンを手に入れた後に、そのガウンに見合う環境を整えようと、家具や調度品を買い漁り散財する憂き目に遭います。
カナダの文化人類学者 グラント・マクラッケン(1951-)は、ディドロの逸話にちなみディドロ効果と名付けました。
魅力的なブランドや商品が溢れる今日、誰もがディドロになる可能性があります。
1971年、カルビーから仮面ライダースナックが発売され最盛期には1日100万袋を売り上げます。子供たちのお目当ては、おまけの『仮面ライダーカード』です。子供たちの心には「すべてのショッカー怪人を揃えたい!」という欲望が芽生えます。しかもレアなラッキーカードは、全カードを収納できる「仮面ライダーアルバム」と交換できます。
昭和の少年少女の心に『ディドロ効果』が働き、夢中になって仮面ライダースナックを購入したのです。
石井淳蔵『ブランド 価値の創造』(岩波書店)