新製品 すぐ買うあの人 待つあなた〜イノベーター理論〜

新製品の普及から衰退を消費者の立場で考える

すぐ買う派と様子見派

イノベーター理論は、新製品の購入スピードで、消費者を5タイプに分類し、新製品に対する消費者の行動心理を示した販売戦略の指針です。

『イノベーター理論 』とは?

新製品の普及率を購入順に 5タイプで示した理論

新製品は、最初からすべての人に受け入れられるわけではありません。

その昔、カメラは、人々にとって魂を抜かれる恐怖の存在でした。新製品を世に問う時は、お客様の判断基準となる要因の理解が必要です。

新製品が発売されると、消費者は新製品をすぐ手に入れる16%のすぐ買う派(初期市場)と、まわりの様子を見守る84%の様子見派(メインストリーム市場)の2派に分かれます。

初期市場=16%のすぐ買う派

1イノベーター新しいものは即購入する2.5%の人々
2アーリーアダプター新しいものを積極的に購入し気に入れば人に奨める13.5%の人々

メインストリーム市場84%の様子見派

3アーリーマジョリティアーリーアダプターの推奨に影響を受けやすい34%の人々
4レイトマジョリティかなり商品が普及した段階で、やっと購入する34%の人々
5ラガード流行に乗らない頑な16%の個人主義者

すぐ買う派は新しさを求め、様子見派は安心感を判断基準にします。

アーリーアダプターの力

すぐ買う派が惹かれる目新しさが様子見派にとっては不安材料です。両派の判断基準の違いは、初期市場とメインストリーム市場の間にキャズムと呼ばれる溝を生みます。この溝を超えなければ売上が低迷し衰退していきます。

84%の様子見派に、安心感を与える存在がアーリーアダプターです。アーリーアダプターは、単なる新しもの好きではありません。製品を購入するだけでなく批評や推奨を行うことで消費行動が完結するタイプの消費者です。

アーリーアダプターの推奨の影響を受けやすい層がアーリーマジョリティです。アーリーアダプターの推奨に安心し購入を決定します。

2019年のタピオカミルクティーブームでは、消費者の行動がどのように市場の成長や競争に影響を与えたのでしょう。

製品が、新製品として市場に投入されてから衰退に向かうまでには導入期、成長期、成熟期、衰退期という4つのサイクルがあります。これがアメリカの経営学者ジョエル・ディーン(19061979)が、1950年に唱えたプロダクト・ライフサイクル理論です。

1962年にアメリカの社会学者 エベレット・ロジャース(1931-2004)が発表したイノベーター理論は、このライフサイクルを、5タイプの消費者の行動パターンで示しています。

イノベーターは、新製品の導入期に最初に興味を持ち購入します。成長期に入り、アーリーアダプターやアーリーマジョリティが製品を受け入れます。成熟期には、アーリーマジョリティやレイトマジョリティが追随します。新製品が8割に浸透し衰退期に入ると、ようやくラガードが製品を受け入れるかどうかを判断します。

タピオカブームの背景にはSNSを通じて口コミを拡散させたアーリーアダプターの存在があります。キャズムを超えたきっかけはインスタ映えするネタを探していた人々に「映えフード」として認知されたことです。

「このツブツブは何よ」と懐疑的だったアーリーマジョリティがアーリーアダプターに触発され動き出します。タピオカティは急速に受け入れられキャズムを超えます。2020年には約120社が市場参入し、タピオカ店には長蛇の列ができます。

レイトマジョリティまで浸透すると成長が減速し、ラガードが関心を持ち始めた頃は、ブームに翳りが生まれ衰退期に入ります。

この間、ブームの先駆者である春水堂(チュンスイタン)とゴンチャの2社は、ブームの失速を見越し、ブランド価値を着実に磨き、競合他社が撤退する中で市場をリードし続けました。その結果、ブームから5年経った現在もお客様を魅了しています。

参考文献

フィリップ・コトラー、ケビン・ケラー『マーケティングマネジメント』(丸善出版部)

ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)

藤田政博『バイアスとは何か』(筑摩書房)

稲垣涼子『カワイイエコノミー』(日経BP)

ジェフリー・ムーア『キャズム Ver.2 増補改訂版』(翔泳社)

荒木博幸『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)