「0から1を生み出そう!」の罠
「0から1を生み出そう!」というフレーズは、単なる比喩にすぎません。地球の法則では0から何かが生まれることはありません。
近代経済学の父 ジョゼフ・シュンペーターの理論をベースに、イノベーションの正体は「既存要素の新しい組み合わせ(新結合)」であることを紐解きます。

イノベーションはお客様が主語である
シュンペーターは、イノベーションを、“すでにある1と1を新しく結びつける新結合による価値創造”と定義しました。

価値を生む新結合とそうでない例を比べます。
- 太陽光発電(価値ある新結合)
- 太陽光 + 半導体(太陽電池)
- 既存の要素を組み合わせた持続可能なエネルギー
- 永久機関(0から1の幻想)
- 根拠なき主張:無からエネルギーを生む
- 物理法則に反し、実現不可能。
重要なのは、組み合わせが人の生活をどう変えるか。3Dテレビは イノベーションを技術革新だけで捉えた典型です。
- 技術が先行:3Dテレビ=テレビ+3Dメガネ
- 顧客ニーズとの乖離:立体という映像体験がお客様に響かない
お客様という主語がなく、しかもお客様不在の組み合わせゆえに市場に浸透しませんでした。
仮面ライダーに学ぶ1を100に変える長期利益の築き方
1のアイデアを100の巨大な利益にまでスケールアップさせ、半世紀以上にわたり持続させている成功例が『仮面ライダー』シリーズです。
新結合の連鎖で莫大な価値を生み出しています。
- 設定の新結合(1 → 10) 石ノ森章太郎先生は「人間 × 昆虫」という異質な要素を掛け合わせ、悲哀あるヒーロー像を確立。物語としての価値の源泉。
- ビジネスモデルの新結合(10 → 100)
- メディアミックス: 漫画とテレビを同時展開。児童誌『テレビマガジン』と連携。
- サプライズによる継続: 主役負傷の危機を「2号ライダー」の投入という新展開に変え、人気を加速。
- IP(知的財産)ビジネス: 「変身ベルト」などの玩具展開により、物語の体験を商品化。子どもが「ヒーローになりたい」という欲求を満たす仕組みで長期的利益を確立。
『仮面ライダー』は、物語という「1」を、メディア展開とキャラクタービジネスで「100」にまで引き上げた、究極のイノベーションです。




イノベーションは、天才の閃きはありません。 「既存要素× 新しい組み合わせ × 顧客ニーズ」 の掛け算で、利益を10倍、100倍へと成長させるプロセスこそが、真のイノベーションです。
参考文献
名和 高司『シュンペーター』日経BP

