人間の思考プロセスを戦略に活かすには
日常の判断を支える思考法
ヒューリスティックは、行動経済学の研究によって解明された、直感的で迅速な意思決定を行うための効率的な思考法です。
直感で素早く意思決定をするための効率的な思考法
中でも代表性ヒューリスティックと利用可能性ヒューリスティックは、人が判断を下す時に、頻繁に用いる思考です。しかし、その効率性と引き換えに、時折誤った判断をもたらすことがあります。
直感で、世の中のステレオタイプを元に『レッテル貼り』をして決めつけてしまう思考

直感で、自分の頭の中にあるパッと思い出せる記憶や印象に残っている事例だけで判断する思考

マーケティングの世界的権威 フィリップ・コトラー(1931-)は、自身のマーケティングとともに歩んだ半生を綴った『私の履歴書』の中で、次のように述べています。
行動経済学はマーケティングの別称に過ぎない
人の意思決定に大きな影響を与えるヒューリティックは、行動経済学の基盤でありマーケティングと密接に結びついています。
市場戦略の成功への鍵
行動経済学の始祖 ダニエル・カーネマン(1932-)とエイモス・トヴェルスキー(1936-1996)の研究により、人の思考には2つのモードがあることを、突き止めました。
一つは直感的なファストモード(ヒューリスティクス)、そして、もう一つは論理的に熟考するスローモードです。
この2つの思考プロセスを理解することは、消費者の行動を洞察し、戦略を立てるのに役立ちます。
たとえば人は、ファストモードでは、ワークマンを『職人御用達の店』という思い込みで決め付けてしまいます。
スローモードでは、作業服の防寒・防水などの機能から『機能性の高い服を低価格で販売している店』と認識することができます。
ワークマンは、この消費者心理を踏まえ、作業服の機能にファッション性を取り入れた女性向けブランド「#ワークマン女子」とアウトドアブランド「WORKMAN Plus」を立ち上げ、増収増益を達成しています。
2つの思考プロセスの理解と消費者行動を洞察することは、戦略を市場戦略の構築に貢献します。
特撮映画の名作がリメイクされるたびに、ネットには「駄作!」「どうせCGなんでしょ」とオリジナルに思い入れのあるファンの辛辣な意見が溢れます。人の心に潜むアナログとデジタルの対立意識が背景にあるのかもしれません。
しかし、大切なのは、思い込みを捨て新旧それぞれの特色や感動を愉しむことです。作品に込められた思いを受け止める心が、豊かな映画体験に繋がります。
ダニエル・カーネマン『NOISE』(早川書房)
ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)
リチャード・セイラー キャス・サンティーン『実践行動経済学 完全版』(日経BP社)
土屋哲雄『ワークマン式 しない経営』(ダイヤモンド社)