60年代 家電メーカーのCMソングの秘密とは?
人はみな心にディドロを飼っている
18世紀フランスの哲学者ドゥニ・ディドロ(1713-1784)は、ある時、美しいガウンを贈られました。
ディドロはガウンを身に着けると、家の中の調度品が途端にみすぼらしく感じられ、次々と新しい家具や装飾品を買い揃えずにはいられなくなり、散財してしまいます。
人は一つの理想的な価値を持つ新しい物を手に入れると、それと調和するように周囲の物も統一したいという欲求に駆られます。
その結果、次々とモノを購入してしまう行動心理がディドロ効果です。

ウチの家電は みんなあのメーカー
1960年代の日本。洗濯機、冷蔵庫、テレビは人々の憧れの的。
一つの便利な家電を手に入れ、その有り難みを実感すると、「次はあれが欲しい」「どうせなら同じメーカーで揃えたい」という欲求が自然と湧き上がってきます。
この心理を、当時の家電メーカー 松下電器と東芝は見逃しませんでした。
お茶の間のテレビからは、キャッチーなCMソングが毎日のように流れ、人々の購買意欲を刺激しました。
生活のあらゆる場面で活躍する自社家電をアピールし、お客様の心に潜むディドロ効果をくすぐったのです。
歌うのは、奇しくも両社ともダークダックス。「みんな」「ウチじゅう」をいった言葉を用いてコンプリート欲を刺激します。
人々は知らず知らずのうちに「同じメーカーで揃えるのが望ましい」という気持ちになります。
その結果、リピート購買の連鎖を生み出し、日本の高度経済成長期の「消費の黄金時代」を支えた大きな原動力になりました。



ディドロ効果』とは?
人が生活の中に理想的で新しい価値を取り入れると、それに合わせた生活環境を求め消費を繰り返す行動心理
参考文献
石井淳蔵『ブランド 価値の創造』(岩波書店)