60年代 家電メーカーのCMソングに隠された秘密とは?
1960年代、日本の家庭に次々と広がった家電ブーム。その背景には、ただ便利さを伝えるだけではない、巧妙な仕掛けがありました。
耳に残るCMソングが、人々の購買欲を刺激し「もう一つ欲しい!」「揃えたい!」という気持ちを生み出していたのです。
どうせ買うなら同じメーカーで揃えたい
その仕掛けの正体はディドロ効果。
ディドロ効果とは、最初に「良いもの」を手に入れると、それに合わせて他のものも欲しくなる心理現象のこと。
フランスの哲学者ドゥニ・ディドロが、豪華なガウンを購入したことをきっかけに、持ち物を次々と買い替えてしまったエピソードから名付けられました。

この心理を応用し、家電メーカーは「テレビを買ったら冷蔵庫も」「冷蔵庫を買ったら洗濯機も」と、同じブランドで揃えたくなる仕組みを作り上げたのです。
60年代の家電CMの影響力
当時の日本では、洗濯機・冷蔵庫・テレビが“豊かさの象徴”でした。
ナショナル(現パナソニック)や東芝といった大手メーカーは、家電を「幸せな家庭の必需品」として訴求しました。
その武器となったのが、キャッチーで覚えやすいCMソング。狙いは大きく2つあります。
- 顧客単価のアップ:テレビを買ったら次は冷蔵庫、さらに洗濯機へと購買を促す。
- ブランドへの愛着強化:同じメーカーで揃えることで「家族の幸せ」や「豊かな生活」を連想させ、競合への乗り換えを防ぐ。
「みんな みんな」「ウチじゅう」といった歌詞は、家電を揃えることが家族の絆や生活の向上につながるというメッセージを伝えました。
歌っていたのは、ナショナルも東芝も同じ人気コーラスグループの ダークダックス。
4人の美しいハーモニーは耳に残りやすく、「同じメーカーで揃えたい!」という気持ちを自然に引き出しました。



こうして家電メーカーは、ディドロ効果を巧みに活用し、人々の欲求を刺激して購買意欲を高め家電黄金時代を築いたのです。
参考文献
石井淳蔵『ブランド 価値の創造』(岩波書店)

