決め手は“好意” 好意の法則がもたらす競争優位性
商品購入の裏に隠された心理
好意の法則は、好意を感じている人物の意見を受け入れやすいという心理です。
あなたには、商品を販売する人への好意が決め手となって商品を購入した経験があるはずです。同じように、お客様が商品を購入する際に、販売者に対する好意が購買決定に大きな影響を与えます。
アメリカの社会心理学の権威 ロバート・B・チャルディーニ(1945-)が提唱した好意の法則を理解し、マーケティング戦略に組み込むことは競争優位を築き、収益を増加させる重要な手段の一つになります。
大手企業では、商品に対する好意度(プレファレンス)を高め、ブランド価値を維持する戦略に積極的に取り組んでいます。
中小企業には、大手企業と比べ、お客様とのコミュニケーションが、より密接であるという強みがあります。お客様との接点を活かして、お客様の好意を獲得することは、信頼関係を構築し、競争力を高める効果的な方法といえます。
競争力の鍵を握る要素
もう一つ、中小企業が競争優位性を築く鍵として、注目すべき心理現象が、心理学者ロバート・ザイオンス(1923-2008)が発見したザイオンス効果です。
ザイオンス効果は、繰り返し接触することで好意が高まり、記憶に残りやすくなる心理効果です。
商品そのものは、どこで購入しても同じであっても、お客様は好意に基づいた判断を下すことがあります。
お互いの顔を認識し、繰り返しコミュニケーションを交わす中で「あの人から買いたい」という好意の感情が形成されるからです。この心理効果を活用し、お客様の心に、好意を育むことがリピート購入につながります。

行動経済学や社会心理学の知見を取り入れ、お客様の心理や好意を理解しマーケティング戦略を構築することが中小企業の競争優位性を強化する鍵となります。
信頼関係の基盤づくりを重視し、商品の利点だけでなく、お客様との継続的なコミュニケーションを通じて好意を促進することは、収益向上に繋がるステップといえます。
O・ヘンリーの小説『ミス・マーサのパン屋』の主人公マーサは、古くて安いパンしか買わない常連客 ブルムバーガーに、好意の印として、中にたっぷりバターを塗り込んだパンをサービスします。ところがブルムバーガーは、バターのせいで仕事を台無しにします。建築家の彼はパンを製図を描く時、消しゴムの代わりにしていたのです。
好意が、必ずしも顧客のニーズと一致しないことがあります。商売に限らず好意を示すのは難しいものです。
ロバート・B・チャルディー二『影響力の武器』(誠信書房)
リチャー・セイラー『実践 行動経済学』(早川書房)