“お気に入り!” 手放せないあなたの 胸の内〜保有効果〜

手放したくない所有欲を刺激し、利益を得る方法

人はなぜ所有物に執着するのか?

保有効果とは自分の所有物に対する高い価値感や手放したくない心理のことです。

『保有効果』とは?
バイアスの一つで、人が自分が保有するものに高い価値を抱き、手放したくないと感じる心理

新しいスマートフォンが登場しても、古い携帯電話を使い続ける人がいます。それは、古い携帯電話の価値を実際の価値よりも高く感じるからです。

人は物を手放す際、その価値を実際の2倍以上に感じます。もう一つ古い携帯電話を持ち続ける心理には、スマートフォンの使い方に不安を感じる現状維持の要素もあります。

イトーヨーカドーの成功戦略

お客様が製品を長く愛用してくれるのは嬉しいことですが、「モノが売れない」というジレンマが生じます。この問題を行動経済学の権威 ダニエル・カーネマン(1934-2024)やリチャード・セイラー(1945-)が研究した保有効果を利用した戦略が解決します。

イトーヨーカドーは2008年のリーマンショックの不況下、現金下取りセールを導入しました。このセールは、5,000円以上の衣料品を購入すれば、着なくなった服を1点1,000円で下取りするキャンペーンです。多くのお客様は、いつか着るかもしれないという理由で古い服を保管していますが、古い服に金銭的価値を与えることで、新しい服を購入する欲求を生み出しました。セールは大成功し他の大手量販チェーンも追随しました。

現在もイトーヨーカドーでは、定期的に現金下取りセールを開催、回収した服は再利用されています。

コラム:寅さんが売りたくない絵

ほんとに自分の気に入った作品っていうのは売りたくないもんなのよ。かといって、気に入らない作品ってのはますます売りたくないでしょ』

『男はつらいよ 私の寅さん』のマドンナ 柳りつ子のセリフです。岸惠子演じる画家のりつ子は生活が苦しくても自分が気に入っている作品は、お金に代え難いと思っています。

寅次郎は、りつ子との恋に破れ旅に出て商売に励みます。その店先に、りつ子に描いて貰った自画像を飾ります。その絵には、大きく『非売品』と書いた札が貼られています。

参考文献

ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)

リチャード・セイラー『セイラー教授の行動経済学入門』(ダイヤモンド社)