あのトラウマ映画『マタンゴ』に学ぶ行動経済学
人はみな 合理的には 動かない
プロスペクト理論は、リチャード・カーネマン(1934~2024)とエイモス・トヴェルスキー(1937~1996)が、人がリスク下で、どんな意思決定を下すかを解明した行動経済学の里程標です。
人は利益のために合理的な行動を取るという定説を覆し、人は利益よりも損失に対して強く反応し、不合理な行動を取ることを立証しました。
人はみな 目先の利益に 抗えない
観る者をトラウマに陥れる東宝特撮映画の名作『マタンゴ』。ヨットで遭難した7人の男女が無人島に漂着します。唯一の食料は食べればキノコと仮す“禁断のキノコ”のみ。難破船の船内に割れた鏡が残されているのも気になります。
7人は、飢えをしのぐという短期的利益と、人間性を失い変異するという長期的損失のどちらを選ぶべきかという究極の選択を迫られます。
理論的には、キノコを食べない方が最も理にかなった選択です。しかし、極限状態では、意思決定の基準となる参照点が大きく変化します。
人は損失を、利益の2倍から2.5倍(平均で2.25倍)重く感じるため、飢えという損失を避けるためにリスクを冒し、1人また1人とキノコを口に運びます。

そして、割れた鏡の意味を理解します。鏡は、かつて同じようにキノコを食べ、変異した自分を見た者が、苦痛に耐えきれず割ったものだったのです。
“見たくないものは見ない”のも人の心です。後にカーネマンとトヴェルスキーは、この行動心理 確証バイアスを研究して行動経済学を確立します。
『プロスペクト理論』
人は利益よりも損失に強く反応し、不合理な行動を取ることを立証した行動経済学の理論
参考文献
- ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)