あのトラウマ映画『マタンゴ』に学ぶプロスペクト理論
人はみな 合理的には 動かない
なぜ人は、「今、損をしたくない」という思いから、将来的にもっと大きな損失を受け入れてしまうのでしょうか?
この行動心理の背後には、プロスペクト理論という行動経済学の基礎となる理論が深く関わっています。
プロスペクト理論は、「人間は得をすることよりも、損を避けることに対して強く反応する」という、人の非合理な意思決定のパターンを明らかにしました。
例えば、1万円を手に入れる喜びよりも、1万円を失う苦痛の方が、約2.25倍も大きく感じられるとされています。
この「損失を避けたい」という強い衝動こそが、時に取り返しのつかない決断を生んでしまうのです。

『マタンゴ』が描く不合理な選択の結末
人間の不合理な心理を、見事に描いたのが東宝特撮の名作『マタンゴ』(1963年)です。
物語は、無人島に漂着した若者たちが、奇妙なキノコを発見するところから始まります。
しかも一口でも食べればキノコ人間に変貌してしまう“禁断のキノコ”です。
最も合理的で安全な選択は、救助隊を待つことです。
しかし、彼らは極限状態下で「飢え」という損失を避けたい衝動に駆られキノコを食べてしまいます。
- 損失回避: 損をしたくないという心理から合理的ではない選択をする
- 非合理な決断: 小さな損失(飢え)を避けるために、より大きな損失(人間性の喪失)を選んでしまう。
- 非対称な価値判断: 損失局面ではリスクを避けるどころか、あえてリスクを取る
『マタンゴ』には、人間が極限状態でどのように非合理な判断を下してしまうかという、行動経済学の深い示唆が込められています。
参考文献
- ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)