あのトラウマ映画『マタンゴ』に学ぶ行動経済学
人はみな 合理的には 動かない
プロスペクト理論は、ノーベル賞学者 ダニエル・カーネマン(1934~2024)とエイモス・トヴェルスキー(1937~1996)が、不確実な状況下における人の意思決定を解明した行動経済学の重要な理論です。
これまでの人は利益に対して合理的な行動を取るという考え方を覆し、人は利益を得るよりも損失を避ける傾向が強く、必ずしも合理的な選択をしないことを示しました。
人はみな 目先の利益に 抗えない
観る者にトラウマを植え付ける東宝特撮映画の名作『マタンゴ』。
ヨットで遭難した7人の男女が無人島に漂着します。食料は、口にすればキノコへと姿を変える“禁断のキノコ”のみ。難破船の船内に残された割れた鏡も不吉な予感を漂わせます。
7人は、飢えをしのぐという短期的な利益と、人間性を失い異形へと変貌するという長期的な損失の間で、究極の選択を迫られます。
論理的に考えれば、キノコを食べないことが最も合理的な判断。しかし極限状態下では意思決定の基準となる参照点が大きく変動します。
人は損失を利益の2倍から2.5倍(平均2.25倍)程度重く感じるといわれます。飢餓という損失を回避しようとキノコを口にしてしまいます。

そして、彼らは割れた鏡の真の意味を知ることになります。鏡は、かつて同じようにキノコを食べ、変わり果てた自身の姿を見た者が、絶望のあまりに打ち砕いたものだったのです。
“見たくないものから目を背ける”のも人の心。後にカーネマンとトヴェルスキーは、この心理傾向 確証バイアスの研究を行い行動経済学の発展に大きく貢献しました。
『プロスペクト理論』
人は利益よりも損失に強く反応し、不合理な行動を取ることを立証した行動経済学の理論
参考文献
- ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)