市場には5つの脅威が待ち受ける 〜ファイブフォース分析〜

龍角散に学ぶ競争優位の築き方

龍角散は薬価改定など構造的な圧力を受ける製薬業界の中で、売上279億円・純利益12.8億円(2025年3月期)という高い収益性を維持しています。

なぜ、龍角散はこのような安定した利益率を確保できているのでしょうか?

その理由を、競争戦略論の権威 マイケル・ポーターのファイブフォース分析で解き明かします。

儲かる業界≠ 儲かる会社

ファイブフォース分析は、企業が競争優位を築き、利益を獲得するための戦略の出発点

ある業界が利益を出しやすいのか5つの力から収益性を査定します。

この5つの力は、業界の収益性を押し下げる外部・内部の圧力です。

“圧”が強ければ利益は削られ、弱ければ利益は残ります。

  • 競合:価格競争が強まるほど利益は減少
  • 新規参入:新顔が増えるほどシェアが奪われ利益減
  • 代替品:他の選択肢が増えるほど需要が流れ利益減
  • 仕入れ先:供給者の力が強いとコスト上昇で利益減
  • 買い手:値下げ要求が強いほど利益減

しかし、“儲かる業界=儲かる会社”になるとは限りません。

また“儲からない業界=儲からない会社”とも限りません。

ファイブフォース分析が示すのは 業界の魅力度(パイの大きさ)

一方、企業が得られる利益の大きさは 企業の戦略(パイの取り方) が左右します。

例えるならばファイブフォース分析は「漁場の深さや広さ」を教えてくれるもので、企業戦略は「その漁場でどう獲るか」を決めるものなのです。

競わないことが最強の戦略

龍角散は、5つの脅威を正面から受けずに済む独自のポジションを構築することで、高収益を実現しています。

つまり、「競争しないための戦略」を高いレベルで確立しているのです。

ファイブフォース龍角散の非競争戦略強みのポイント
①競合の脅威のど専門・第3類医薬品に特化独自のニッチ市場を確保
②新規参入の脅威200年の歴史・ブランド・独自技術模倣が難しく参入障壁が高い
③代替品の脅威のど飴市場25%シェア習慣化による強いロイヤリティ
④仕入れ先の脅威独自ルートで原料調達コストの安定化と主導権確保
⑤買い手の脅威手頃な価格 × 高いブランド力価格競争を避け高付加価値を維持

さらに龍角散は、セルフメディケーションを積極的に推進。


“社会課題の解決が企業の利益につながる”というポーターのCSV経営を実践しています。

5つの圧力を回避しつつ社会的価値を創出することが、龍角散の持続的成長を支える土台です。

附録 製薬業界のタイプ別構造

区分業界構造主な課題龍角散との違い
総合メーカー新薬開発中心、薬価改定の影響大研究開発費・薬価規制の圧力龍角散は薬価改定の影響がほぼなし
ジェネリック低価格競争に巻き込まれやすい買い手交渉力・薄利多売龍角散はブランド価値で価格競争回避
OEMメーカー他社依存が強い買い手・供給者依存龍角散は自社ブランド中心で自立的
第3類医薬品メーカー=龍角散OTC市場・セルフメディケーション対応ニッチ市場龍角散はその中でも圧倒的ブランド力

参考文献

マイケル・ポーター『競争の戦略』(ダイヤモンド社)