“高級食パン” 高くても買う この心理

マケの門

3分でわかる『アンカリング効果』

心の中の「重い錨」が動く時!

なぜだろう? 寿司屋の“時価”の緊張感

あなたは、寿司屋の“時価”にドキドキした経験はないでしょうか?

あなたがドキドキした理由は、価格がわからなくては比較のしようがないからです。人は、自分の心の中に残っている印象的な数字や情報を頼りに価格や物の良し悪しを比較して判断します。このあなたの心の中の数字や情報は、一度記憶すると“重し“のように動かないことから船を係留させる錨にちなみ『アンカー』と呼ばれます。

『アンカー』とは?
 人が意思決定に用いる心の中に残っている印象や数字。一度インプットされると簡単には動かないため船の錨=アンカーに例えてアンカーという

人は最初に示された数字や条件あるいは自分の心の中に残っている印象的な数字や情報を『アンカー=基準』にして判断します。この心理が『アンカリング効果』です。

人の心が、同じ価格の値札でも“通常価格14,000円が特別価格10,000円”という値札に動くのは、元々の価格である“通常価格14,000円”を『アンカー』にする『アンカリング効果』が働いたからです。

『アンカリング効果』とは?
自分の心の中に残っている印象的な数字や情報を意思決定の基準にして判断する心理。時には、ある数字や情報に執着して判断を誤ってしまうことがある

1,000円の 食パンの価値は どこにある?

世の中には『アンカリング効果』を用いて、ユニクロやスターバックスコーヒーのように消費者に徹底した激安価格や新たな体験価値を提供し、人々の消費とライフスタイルを変えた企業があります。

1,000円の食パンが行列できる大人気!
『俺のイタリアン』でおなじみの『俺の』が仕掛けた新業態が『俺のベーカリー&カフェ』です。ほのかな甘さと“ふんわりもちもち”の食感がウリの高級食パン『銀座の食パン~香~』は、1斤1,000円にもかかわらず行列のできる大人気です。

『俺の』にとっては、3つ星レストラン出身シェフの料理を“激安価格”で提供し「イタリアンの値段は高いもの」という消費者の『アンカー』を粉砕し、一大旋風を巻き起こした『俺のイタリアン』とは正反対の戦略です。

消費者は、なぜ普通の食パンの7倍近く割高な『銀座の食パン~香~』を行列してまで購入するのでしょう?

その理由は、消費者は必ずしも価格を『アンカー』にしないからです。

消費者の心を掴んだ価格に代わる価値というアンカー

数量限定という希少性

銀座、恵比寿、自由が丘、用賀という出店エリア

雰囲気のよいイートインスペース

おしゃれなショッピングバッグ

『銀座の食パン〜香〜』の大ヒットの要因は「食パンってこういうもの」と思っていた消費者の心がときめく瞬間、つまり消費者が“希少性の高いパンを入手するプレミアム感などの最初に受けた印象”です。普通の食パンの“価格”を忘れさせるほどの“強い体験価値”を感じれば、“価格の高さ”には目をつぶります。

『俺のベーカリー&カフェ』は、スーパーのPB食パンなど低価格志向の消費者に、リッチな気分を味わいたい時に普通の食パンに少し金額をプラスするだけで、“上質な体験ができる”という価値を創出し「高級食パン」という新しい市場を生み出しました。

『俺の』は、『アンカリング効果』を活用した“低価格戦略”と“高価格戦略”の両方で成功を収めた企業といえましょう。

参考文献
 

ダン・アリエリー『予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(早川書房)

岸本拓也『「考えた人すごいわ」を考えたすごい人 』(CCCメディアハウス)

松本健太郎『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(毎日新橋出版)

坂本孝『俺のイタリアン、俺のフレンチ―ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方 』(商業界)