誤解も価値も生む心理効果の謎
人はみな 最初に見たものに 縛られる
アンカリング効果とは最初に見聞きした印象や数字が意思決定に深く影響を与える心理です。これらの情報はアンカーと呼ばれ、後の判断を方向づけます。
黒澤明(1910-1998)の『影武者』主役交代事件は日本映画史に残る出来事です。
当初、主演を務めるはずだったのは、強烈な個性と存在感を放つ勝新太郎(1931-1997)でした。
しかし予期せぬ事態で降板。急遽、黒澤映画の常連 仲代達矢(1932-)が代役を務めることになります。
観客の心には、勝新太郎というアンカーが深く刻まれ、仲代達矢を勝と比べてしまい、作品の評価まで歪んでしまうという現象が起きたのです。
名優 仲代達矢は、静かに深く「あなたは勝さんの『影武者』を観たのですか?」と問いかけます。
この発言は、アンカリング効果がいかに人の認識を左右し、本質を見えにくくしてしまうのかを物語ります。
1,000円の高級パンが売れた理由
2010年代半ばから2020年にかけてブームを巻き起こした高級食パン。
ブームを牽引したのが「俺のベーカリー&カフェ」の『銀座の食パン~香~』でした。
食パンの価格が160円前後だった時代に、1,000円という価格は人々の記憶に刻まれました。
大ヒットを記録したのは、榎本哲(1979-)プロデュースという信頼感、数量限定という希少性、銀座や自由が丘など人気エリアへの出店、心地よいイートインスペースの雰囲気。これらの要素が、1,000円という価格を凌駕する価値として、お客様の心に深く響いたのです。
お客様の記憶に刻まれたのは価格というアンカーではなく、それ以上に魅力的なストーリーだったといえるでしょう。

『アンカリング効果』とは?
最初に見た印象や数字が意思決定に影響を与える心理現象
参考文献
- ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)