ブランディングの成否を決める最初の印象とアンカーの影響
ブランディングとは、消費者の最初の印象をどう設計するかという戦略です。
製品やサービスの最初の印象は、消費者の脳内に強く刻まれ、その後の評価基準となります。
消費者の心に働くアンカリング効果の攻略が成否を分けます。
アンカーに敗れた高級食パンブームの教訓
アンカリング効果とは、アンカーと呼ばれる人が最初に触れた価格、印象、カテゴリなどが脳裏に残り、その後の判断や評価を無意識に歪ませる心理作用です。
効果的なブランディングは、このアンカーを意図的に設定し、市場にすでに存在するアンカーにどう対峙するかがポイントです。
しかし、既存の印象やカテゴリなど、強力なアンカーを凌駕することは難しいもの。
- 歌舞伎:先代の名声が後継者の評価基準になる
- 政治:二世議員は親のイメージから逃れられない
歌舞伎や政治の後継者を思い起こすとイメージしやすいでしょう。
| 分野 | 先代の強いアンカー | 後継者 | 心理的な壁 |
| 歌舞伎 | 十二代目 市川團十郎 | 十三代目 市川團十郎 | 先代の芸と名声が常に評価基準となる |
| 政治 | 小泉純一郎 | 小泉進次郎 | 改革者という父のイメージとの比較から逃れられない |
製品の世界では、高級食パンブームがその典型例です。
「食パンは日常食」という長年にわたって形成されたアンカーを覆すことができず、ブームは終焉を迎えました。
高価格、高級材料、奇抜なネーミングによって「特別な食パン」という新しいアンカーを設定しようとしましたが、生活習慣として根付いた既存のアンカーを持続的に上書きする力はありませんでした。
これは、後継者が常に先代と比較され、その影から抜け出せない構造とよく似ています。

角川書店の戦略転換
角川書店(現KADOKAWA)の2代目社長 角川春樹が50年前に取ったメディアミックス戦略に成功のヒントがあります。
角川春樹は、創業者である父 角川源義が築いた「学術出版社」という強固なアンカーを打破せず、カテゴリを転換しました。
- 書籍 → エンタメ・コンテンツへ再定義
- メディアミックス → 文学性から話題性・流行へ評価軸を変更
既存アンカーを凌駕するのではなく、新しいアンカーを提示する戦略が成功しました。
ブランド戦略の成功は「既存アンカーを超える」か「回避して新しい基準をつくる」かの選択にかかっています。
参考文献
- ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)

