買ったわけ 最初の印象? 見た値段?
〜アンカリング効果〜

アンカリング効果のメカニズムと戦略的価格設定への応用

錨に例えられる最初の印象

アンカリング効果は、バイアスの一つで、最初に見た印象や数字が人の意思決定に影響を与える心理現象です。

『アンカリング効果』とは?
バイアスの一つで、最初に見た印象や数字が人の意思決定に影響を与える心理現象

最初に見た情報は、人の記憶に、船の錨のように固定され意思決定の基準となるのでアンカーと呼ばれます。

行動経済学の権威 ダニエル・カーネマン(1934-2024)とエイモス・トヴェルスキー(1937-1996)が、バイアスの一つとして、つきとめたアンカリング効果を、販売戦略に組み込むことは、競争優位を築き収益を高めるための戦術の一つになります。

価値で収益を上げる方法

経営資源に限りのある中小企業は価格競争に巻き込まれると、疲弊するだけでなく市場での強力なポジションを築くことが難しくなります。

アンカリング効果を活用して価格競争を回避し、顧客の心をつかむ戦略が効果的です。

俺のベーカリー&カフェの『銀座の食パン~香~』は、高価格&高価値戦略の成功例です。

食パンはパン市場の6割を占める定番商品です。消費者の心には160円前後の価格帯と慣れ親しんだ味覚がアンカーとなっています。

それに対して、『銀座の食パン~香~』の価格は1,000円と高額です。しかし、消費者は必ずしも価格をアンカーにしません。

日本屈指のパン職人 榎本哲(1979)プロデュースによる本格志向。もっちりとした生地と香り、そして「数量限定」という印象から生まれる希少感。銀座や自由が丘のような一等地に存在する特別感、魅力的なイートインスペース。

これらの価値がアンカーとなり、『銀座の食パン~香~』の存在を消費者の心に深く刻みます。その結果、市場に“高級食パン”という新しいポジションを築きました。

お客様の記憶に刻まれたアンカー
  • 人:榎本哲シェフプロデュース
  • 数量:数量限定という希少性
  • 出店:銀座や自由が丘など人気エリア
  • 雰囲気:心地よいイートインスペース 

『銀座の食パン~香~』や世界的なコーヒーチェーン スターバックスのように、高価格帯でも、他とは異なる心地よい空間と独自の接客サービスなど独自の付加価値を提供する企業は成功を収めています。

アンカリング効果で価値を強調する戦術を、戦略に取り入れることは、企業規模や業態にかかわらず、新たな市場セグメントを開拓し、競争優位性を築くための有力な手段といえるでしょう。。

コラム 『影武者』の主役交代騒動

黒澤明監督の『影武者』主役交代事件は日本映画史に残る出来事です。人の心には『アンカリング効果』が働き最初の主役 勝新太郎の強い印象に引き摺られ、作品に対する評価まで歪められます。しかし仲代達矢の「あなたは勝さんの『影武者』を観たのですか?」というコメントが、アンカリング効果の奥深さを物語っています。

参考文献
  • ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)
  • リチャード・セイラー キャス・サンティーン『実践行動経済学 完全版』(日経BP社)
  • 松本健太郎『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(毎日新聞出版)
  • 坂本孝『俺のイタリアン、俺のフレンチ―ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方 』(商業界)