「たいしたもんだよAIDMAは!」 寅さんに学ぶAIDMAの法則

寅さん口上

特別篇 寅さんに学ぶ『AIDMAの法則』

「たいしたもんだよAIDMAは!」

AIDMAは 人の心に ぴったりハマる 

『AIDMAの法則』とは、お客様が商品を知ってから購入するまでを5つのステップで示した購買モデルです。

AIDMAの法則』の5つのステップは、その間のお客様の心の変化に沿っています。

  1. Attention(注意):消費者が商品の存在を知る
  2. Interest(興味):消費者が商品に興味をもつ
  3. Desire(欲求):消費者が商品を欲しくなる
  4. Memory(記憶):消費者が商品を記憶する
  5. Action(行動):消費者が行動する

消費者商品を知ってから購入するまで

お客様が商品を知ってから購入するまでには認知・感情・行動の3段階があります。5つのステップは、その段階ごとの間の心の動きです。

AIDMAの法則』は、今から100年前の1924年にアメリカのコンサルタント サミュエル・ローランド・ホール(1876-1942)が発表しました。『AIDMAの法則』は当時とは劇的に環境が異なる現在でも不変です。なぜなら、いつの世も人の心は変わらないからです。

どの時代でもお客様の心は複雑です。「買いたい」と思う気持ちの裏に「別に買わなくていいかな」という相反する気持ちが芽生えたりします。人の心は、点ではなくいくつもの表層が重なり合っているからです。そんなお客様の心に、ぴったりフィットするのが『AIDMAの法則』です。

図で見る消費者の購買ステップ 

消費者の購買行動AIDMA編

寅さんは 商売のコツを 知っている!

『男はつらいよ』の第1作が公開されたのは1969年8月27日です。人々に愛されて50年を超えます。

第47作『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様には寅さんが甥の満男に商売の心得を伝授する名シーンがあります。当時、重い病いに冒されていた渥美清(1928-1996)は医師の制止を振り切っての出演でした。声量は衰えましたが、往年から変わらぬ優しさの中に鋭さを秘めた眼差しからは、甥の成長を温かく見守る慈愛に満ちた父性が伝わります。

満男は、浅草の靴屋に就職して半年、靴が売れずに悩んでいます。寅さんは、何の変哲もない一本の鉛筆を差し出して「満男、俺にセールスしてみな」と迫ります。しぶしぶ満男は寅さんに売り込みます。

満男の行動 満男のセリフ
ターゲットにいきなり売り込む おじさんこの鉛筆、買ってください。
機能のみの説明 ほら消しゴムもついてますよ。便利ですよ。

「いりませんよ。僕は字を書かないしそんなものは全然必要ありません。以上」 満男に強烈なダメ出しをした寅さんは、商売の心得を伝授します。

全国を放浪し商売に励む寅さんは『AIDMAの法則』をマスターしています。

AIDMAにあてはめると 寅さんのセリフ
A 唐突な思い出話を始め「おふくろ」と「鉛筆」のギャップで聞き手の注意を引く おばちゃん。おれは鉛筆を見ると、おふくろのことを思い出すんだ。
I 自分の体験を語り
興味を惹き付ける
不器用で鉛筆が削れない俺のために鉛筆を削ってくれたんだ。
(手振りで)ちょうどこの辺に火鉢があって、きちんとお袋が座ってさ。
白い手で肥後守(ナイフ)を持って「スイスイスイスイ」削ってくれるんだ。
その削りカスが火の中に入ると「プーン」といい香りがしてな。
おふくろが綺麗に削ってくれたその鉛筆で、俺は勉強しないで落書きばかりしていた。
でも鉛筆が短くなる分、利口になった気分だったよ。
D ボールペンとの差別化で
欲望喚起
お客さん、ボールペンってものは便利だけど味わいってもんがない。
その点、鉛筆は握り心地が一番。
木の温かさ、六角形が指の間にきちんと収まる。
M 書かせて記憶体験させる ちょっと何でもいいから書いてごらんよ。
「スッ」と鉛筆を渡す。
A お得な価格でクローズ デパートだと60円するんだよ。でもちょっとけずってるから30円でいいよ。いや捨てたつもりだ20円でいいよ。ほらサイフを出しな。

満男は、思わずサイフからお金を出し「伯父さん。参りました」と脱帽します。

寅さんは物と同時にストーリーを売ります。寅さんのように、お客様の心理の変化を理解し『AIDMAの法則』に沿ってストーリーにすれば、お客様の心は動きます。

参考文献

フィリップ・コトラー他『フィリップ・コトラーのマーケティング4.0スマートフォン時代の究極法則』(朝日新聞出版)

小林信彦『おかしな男 渥美清』(新潮社)

山平重樹『ヤクザ大辞典』(双葉社)

厚香苗『テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る』(光文社)