”得したい! “ だけど誰もが 損をする

マケの門

 

3分でわかる『プロスペクト理論』

損失を 避けたい気持ちが 生むリスク

人はみな 得より損を 重く見る!

人はみな人生の成功を夢見ます。しかしその先には、さまざまなリスクが待ち受けています。

半世紀以上 人々に愛される『麻雀放浪記』

“雀聖”阿佐田哲也(1929-1989)の名作『麻雀放浪記』は、日本の娯楽小説史の輝く里程標です。戦後の焼け跡を這いずり回るように生き、リスクを恐れず博打に人生を賭ける男女の生きざまに、多くの人々が魅了されています。

勝つことがきまってる博打なんか、なんの値打ちがあるもんか

主人公の“坊やの哲”のことばです。“出目徳”こと大場徳次郎にイカサマを仕込まれ、2人はコンビを組み勝負に勝ち続けますが、哲は虚しさを感じます。

『麻雀放浪記』の刊行から10年後の1979年に、“人がギャンブルで勝って得る利得や負けることで損失を被る確率を認識した上で、どのような意思決定を下し行動するのか?”が解明されます。

アメリカの心理学者 ダニエル・カーネマン(1934-)とエイモス・トベルスキー(1936-1996)が“人は利得する喜びよりも損失を大きく嫌う”ことを立証した『プロスペクト理論』です。この功績で2002年にカーネマンは、ノーベル経済学賞を受賞します。トベルスキーは1996年に亡くなったため単独での受賞です。

『プロスペクト理論』とは?

ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーの2人の研究者が、リスクが発生する状況下での意思決定のメカニズムを分析して、人の意思決定は損失の程度によって変容することを立証した理論

“利得”より“損失”のショックを2.25倍重く感じるのが、人の心です。

あなたは確実に”利得“を得られる時にはリスクを回避し、“損失”が出ている場合には“損失”を取り戻そうとしてリスクを取る行動を起こすのではないでしょうか?この行動心理が『プロスペクト理論』の要諦である『損失回避の法則』です。

『損失回避の法則』とは?

確実に得をする時はリスクを回避し、損失がある状態では損失を回避するためにリスクを取る行動心理

あのスティーヴ・ジョブズ(1955-2011)は、生前こう言っています。

スティーヴ・ジョブズの教え
安全にやろうと思うのは一番危険な落とし穴なんだ

ジョブズは“価値のあるものを得るためには、相応のリスクが必要。安全ばかり考えていると何も得られない危険があるのだ”と言います。

しかし、あなたも私も”何かを得るために何かを失う可能性のあるリスク”を冒すよりも“何も失わないけれど代わりに何も得ることもない“という安全策を選んでしまうのです。

つぎ込んだ お金と時間が もったいない!

さて、あなたが、特に強い損失を感じるのが既に支払ってしまい取り戻すことができない『サンクコスト』です。経済学を学んだ方には、『埋没費用』という言葉の方がしっくりくるでしょう。日常ではサンクコストに気を取られるあまり、合理的な意思決定が下せなくなる行動心理『サンクコスト効果』が頻繁に発生します。

サンクコスト効果』とは?
 既に支払った回収不能のコストに対し強い損失感を感じ合理的な判断ができなくなってしまう心理効果

『食べ放題』では「払った分は食べて絶対に元を取るぞ!」という心理が働き、食べ過ぎて苦しい思いをする人が少なくありません。

食べ放題の誘惑

『食べ放題』の料金は取り戻すことができないコストです。だから人には「払った分は食べて絶対に元を取るぞ!」という心理が働きます。
ビュッフェ方式の『食べ放題』は、店からすれば注文の予測がつかないアラカルトメニューと異なり、店側であらかじめメニューを決めるため毎日の食材の”仕入れコスト“を抑えることができます。お客さんが「元を取るぞ!」と張り切って食べれば食材の廃棄ロスも防げます。実は『食べ放題』は店にとって“利得”が多いのです。

人は『送料無料』という特典に対し「せっかく買い物をしたのだから、特典を使わないと損だ!」という感情が湧きます。

送料無料の罠

『ネットショッピング』の送料は多くの人が負担に感じるコストです。だから「×点以上お買い上げで送料無料」の特典に惹かれます
人は、たとえ欲しい商品が2点でも『3点以上お買い上げで送料無料』の特典に「せっかく買い物をしたんだから特典を使わなくちゃ損!」という気持ちが働きます。欲しい商品だけを購入して正規の送料を払う方が得なのに『送料無料』という特典を使わなくては損と考え、もう1点余計な物を買い、支払う金額を自分自身で釣り上げる不合理な行動を取ります。

絶対に損をしたくない! お金を払ったんだから元を取らなきゃ損だ!」という消費者心理を、購買へと誘導する手法は販促のさまざまな場面で活用されています。

参考文献
 

ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)

リチャード・セイラー『実践 行動経済学』(早川書房)

ミシェル・バデリー『エッセンシャル版行動経済学』(早川書房)