得したい! だけど誰もが 損をする

3分でわかる『プロスペクト理論』

失う痛みは得る喜びより重い! という事実

人はみな 得より損を 重く見る!

プロスペクト理論は、アメリカの行動経済学の巨匠、ダニエル・カーネマン(1932年生)と、その同志であるエイモス・トヴェルスキー(1936-1996)が1979年に発表した優れた理論である。

この理論が証明するのは、得をしたときの歓びよりも、損をしたときの苦悩が、通常、2倍から2.5倍(平均2.25倍)も重くのしかかるという事実だ。

『プロスペクト理論』とは?

人は得をした時の喜びより損をした時の痛みを重く感じる本能を、経済学と心理学の視点から、人には損失を取り戻そうとして、かえって損失を背負い込む行動心理があることを立証した

人は損失を避ける本能を持っており、損失を回避しようとする傾向が強い。この心の葛藤が、プロスペクト理論の根底にあろう。

「得ぬものは 損!」 人の心は如何にある

人は、とかく振込手数料や送料、投入した時間といった、やむを得ないコストに対して、しばしば損失感を強く抱くものである。

この感情から生じる行動の一例として、サンクコスト効果と呼ばれるものが挙げられる。つまり、すでに支払ったコストを取り戻そうとして、逆に損失を増加させる行為のことである。

『サンクコスト効果』とは?

時間や費用など回収不能のコストを取り戻そうとして判断を誤り、かえって損失を背負い込む行動現象

送料無料のキャンペーンも、このサンクコスト効果を利用しているのであろう。

「送料を取り戻したい!」という心情が、理性を超えて余計な買い物に誘い込むのだ。

実際、欲しい商品だけを購入し、送料を払う方が経済的に合理的な選択であるにもかかわらず、特典に惹かれて購買金額が増大する現象が多々見受けられる。

さて、この送料無料に一石を投じたのが商品の配送を担う物流業界だ。物流業界では、消費者が物流コストを意識しなくなる可能性に懸念の声も上げている。そのため消費者庁が是正策を検討中であるとの情報も伝えられている。

コラム ジョブズの叡智

アップルの創業者、スティーヴ・ジョブズは生前「安全にやろうと思うのは一番危険な落とし穴なんだ。価値のあるものを得るためには、相応のリスクが必要。安全ばかり考えていると何も得られない危険があるのだ」と語っています。

ジョブズの言葉には深い教訓があります。確かにリスクを冒すことは不安定な面もありますが、挑戦しないことが最も危険なのかもしれません。

参考文献
  • ダニエル・カーネマン『NOISE 』(早川書房)
  • ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)
  • 大竹文雄『行動経済学の使い方』(岩波書店)
  • リチャード・セイラー キャス・サンティーン『実践行動経済学 完全版』(日経BP社)