恩恵を お返しすれば うまくいく!
〜返報性の原理〜

返報性の原理 恩恵

返報性の原理と消費者心理を活かす販売技術

人類の歴史から学ぶ返報性の原理

返報性の原理は、他者から恩恵を受けた場合、その恩恵に対する感謝の気持ちから「お返しをしなければならない」という心理が生まれる現象です。

『返報性の原理』とは?

他者から恩恵を受けた場合、その恩恵に対する感謝の気持ちから「お返しをしなければならない」という心理が生まれる現象

この原理は、アメリカの社会心理学者であるロバート・B・チャルディーニ(1945-)年生まれ)によって提唱され、販売戦略に組み込むことが、お客様との強固な関係を築くための有力な手段とされています。

歴史を振り返ると、経済学の父 アダム・スミス(1723-1790)は『道徳感情論』の中で、人と恩恵の関係について、こう説いています。

恩を受けた人は恩を返済できるまで良心が疼き、その心理的負い目を払拭するために次は自分がお返しをする。この行為の繰り返しで、思いやりが溢れるよりよい社会が築けるのだ

同様に、ロシアの革命家であるピョートル・アレクセイヴィチ・クロポトキン(1842-1921)も、『相互扶助論』で、「生物や社会の進化の要因は生存競争ではなく、相互に恩恵のある協力関係である」と主張しました。

市場原理主義者のスミスとアナーキストのクロポトキンという思想信条の異なる2人が、誰かが何かをしてくれた場合、その恩に報いることで良好な人間関係が築かれ、社会全体が向上すると説いています。

このように、恩恵の概念は人類の歴史に深く根付いており、ビジネスにおいても利点の心が成功への鍵となります。

効果的な返報性の原理の活用

返報性の原理を最も象徴する販売技術が試食販売です。漫画家の東海林さだお(1937-)は、エッセイ『あれも食いたい これも食いたい』の中で、試食コーナーでの心境を次のように著しています。

これを食べたら もうのがれることはできないなぁ

試食を通じて、消費者は自分の好みを知り、試食品に関する情報を得ることができます。しかし、試食品を受け取った際には、「お返ししなくては」という心理的プレッシャーを感じ、購入することがあります。試食販売のビジネスモデルは、1か月無料お試しキャンペーンなどにも応用されてい

特に日本のような文化では、義理や人情が尊重され、借りがある場合や恩を受けた場合にはお返しをすることが重要視されます。あなたの会社のビジネス環境に合わせ、消費者心理と文化的要素をマーケティングに活用することで、収益を向上させる可能性が高まります。

コラム 横溝正史の恩返し

1933年、金田一耕助でおなじみの横溝正史は病いに倒れます。執筆不能となった横溝正史の穴を埋めた作品が『黒死館殺人事件』や『人外魔境』で一時代を築いた小栗虫太郎のデビュー作『完全犯罪』です。

「小栗君には恩があるんや」 1946年、45歳で急逝した小栗虫太郎に代わり、今度は横溝正史が追悼と恩返しの気持ちで連載を引き受けます。この時に生まれた作品が、探偵小説史に残る不朽の名作『蝶々殺人事件』です。

恩を返すことで人との絆が深まり、新たな才能や価値が生まれることを、このエピソードが物語っています。

参考文献

アダム・スミス『道徳感情論』(講談社)

ロバート・B・チャルディー二『影響力の武器』(誠信書房) 

ジェシー・ノーマン 『アダム・スミス 共感の経済学』(早川書房)

ブレイディみかこ『他者の靴を履くアナーキック・エンパシーのすすめ』(文藝春秋)

東海林さだお『貧乏大好き』(大和書房)

横溝正史『日下三蔵編 横溝正史エッセイコレクション3』(柏書房)