「返さなくちゃ悪いよなぁ!」受けた恩は返したい『返報性の原理』

マケの門

半沢直樹VS.大和田暁

恩返しと仕返し

理不尽な命令や要求を突き付ける相手には、誰であろうと「倍返し」。池井戸潤(1963-)の人気小説”半沢直樹シリーズ”の主人公・半沢直樹の流儀です。

たとえ相手が政治家だろうと関係ない。この際、きっちり片を付けてやる。やられたら倍返しだ

さて2020年に放映されたドラマ『半沢直樹』では半沢の宿敵、大和田暁のセリフが大きな話題になりました。

ご恩は一生忘れません。施されたら施し返す、恩返しです

人の『善』の気持ちの裏側には『悪』の気持ちが潜んでいます。だから「お返し」にも「恩返し」と「仕返し」の2種類があるのです。人は“他人から恩を受けたら感謝を込めてお礼をする”という心理が働く一方で、“やられたらやり返す”というダークな心理を併せ持っています。

ビジネスのさまざまな局面でものをいうのは、あの悪役キャラ大和田暁が放ったセリフ「恩返し」です。

心理学者も悩む心の重荷の正体とは?

「何かお返ししなければ」という気持ち

人は、他人から恩恵を受けると、お礼として何かお返しをしなければ申し訳ない気持ちになります。この心理を『返報性の原理』といいます。

人には、たとえ望んでいない恩恵を施された場合でも、それを一度受け取ると恩義を感じてしまう傾向があります。人の心理は複雑で、人から何かして貰って嬉しいという感情が、「私のためにこんなに時間や労力を割いてくれて申し訳ない」と心理的な負い目へと変換され、「何かお返ししなければ」という感情が生まれるのです。

アメリカの社会心理学の第一人者 ロバート・B・チャルディー二(1945-)は大ベストセラー『影響力の武器』の中で、恩義を受けたままの状態をこう著しています。

恩義を受けたままの状態というのはとても不快なものです。ずしりと肩に食い込むこの重荷を早く下ろしてしまいたいという気になります。

人間心理の表も裏も知り尽くした社会心理学の世界的権威 チャルディー二を以ってしてもコントロールできない行動心理が『返報性の原理』なのです。

「この気持ちが『返報性の原理』だったのか!」

あなたVS.店員 売場での心理戦

デパートの1階の化粧品メーカーのコスメカウンターでは美容部員のカウンセリングや肌質のチェックを無料で受けられます。地下の食料品売り場には試食コーナがあります。

あくまで、“お試し”ですから、無理に購入する必要はありません。しかし人には「試食したんだから買わないとなんだか気まずいな!」という心理が芽生えます。

「この気持ちってDaiGo(1986-)がYouTubeで言っていた『返報性の原理』だな!」と思い出しても後の祭りです。心にスイッチが入り思わず購入してしまうのが人の心理です。ファンデーションのひと塗り、クッキーの一片が思わぬ出費を招きます。

人の心に『返報性の原理』が働くのは、“売り場”だけには限りません。ビジネスの場面で、有意義な情報を手土産に定期的にあなたの会社を、訪ねて来る営業マンに対し「そろそろ取引しないと悪いな」と思う気持ちが、あなたの心に芽生えるのも『返報性の原理』の影響なのです。

恩返しの「心」を購買に繋げる

『返報性の原理』は人が持つ世界共通の行動心理です。中でも他者を意識して生きている日本人にとっては、恩義を受けた状態のままでいることは、とても苦痛に感じます。

「恩を返したい」という誰もが持っている行動心理を購買に結び付けるために、「サンプル配布」や「無料体験キャンペーン」など『返報性の原理』を活用した販促はマーケティングの定番手法です。

参考資料
 

ロバート・B・チャルディー二『影響力の武器』(誠信書房) 

ルディー和子『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する(日本経済新聞出版)

池井戸潤『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)