3分でわかる『返報性の原理』
恩を受けたままだと心が疼く。お返ししようと心が動く!
昔から『恩』を大事に生きてきた!
あなたは、人から恩恵を受けた時に、お礼に「何かお返しをしなければ申し訳ない」という気持ちになった経験があるはずです。この時に生じた気持ちが『返報性の原理』です。
人から恩恵を受けた時に「お返しをしなくては申し訳ない」という気持ちになる心理

経済学の父 アダム・スミス(1723-1790)は、。『道徳感情論』の中で、人と恩恵の関係について、こう説いています。
恩を受けた人は恩を返済できるまで良心が疼き、その心理的負い目を払拭するために次は自分がお返しをする。この行為の繰り返しで、思いやりが溢れるよりよい社会が築けるのだ
確かにスミスのいうように、恩を返すまでの心は重苦しいものです。
「さあ どうぞ」試食は やっぱり難しい
『返報性の原理』の代名詞といえる販売手法が「試食販売」です。
漫画家の東海林さだお(1937-)は、エッセイ「あれも食いたいい これも食いたい」の中で、試食コーナーでの心境をこう綴っています。
これを食べたら もうのがれることはできないなぁ
試食することで自分の好みに合うかが判断できたり、店員さんとの会話を通じて食品の蘊蓄を学ぶことができます。
それと同時に感じるのが、試食品を受け取ったことによる「お返ししなくては」という心理的プレッシャーです。重苦しい気持ちから逃れるために食品を購入して「お返し」を果たそうとするのです。
借りがある時には、相手に強く出られないのが人の常です。殊に恩を受けた時は、なおさらです。
「彼にはこれだけしてもらったから、私も同じぐらいお返ししなくちゃね」とか「これだけしてあげたんだからアイツもそれなりに借りを感じてるんじゃないか?」と、感情が交錯します。
こうした義理人情を重んじる日本人の気質を考えると返報性の原理を活用することは有効な施策であるといえます。
1933年、金田一耕助でおなじみの横溝正史は病いに倒れます。執筆不能となった横溝正史の穴を埋めた作品が『黒死館殺人事件』や『人外魔境』で一時代を築いた小栗虫太郎のデビュー作『完全犯罪』です。
「小栗君には恩があるんや」 1946年、45歳で急逝した小栗虫太郎に代わり、今度は横溝正史が追悼と恩返しの気持ちで連載を引き受けます。この時に生まれた作品が、探偵小説史に残る不朽の名作『蝶々殺人事件』です。
アダム・スミス『道徳感情論』(講談社)
ロバート・B・チャルディー二『影響力の武器』(誠信書房)
ジェシー・ノーマン 『アダム・スミス 共感の経済学』(早川書房)
東海林さだお『貧乏大好き』(大和書房)
横溝正史『日下三蔵編 横溝正史エッセイコレクション3』(柏書房)