商品を推す理由は「好き嫌い」〜推し消費の深層

絶対的スター不在時代のマーケティング

「なぜプロレスには絶対的スターがいなくても熱狂は生まれるのか?」 

その答えは、団体主導から観客主体への転換にあります。

昭和のプロレスは、新日本・全日本・全女が王国を築き、アントニオ猪木、クラッシュギャルズといった絶対的スターが頂点に君臨。

一方で、令和のプロレスに、絶対的スターは存在せず、高橋ヒロム、OZAWA、上谷沙耶、ウナギ・サヤカらが、独自のスタイルで光を放ち、ファン層を築いています。

団体企業観客お客様置き換えると、現代マーケティングのヒントが見えてきます。

「好き嫌い」で決めるお客様

アントニオ猪木ダンプ松本は誰もが知るレジェンド。

では、バナナ千賀はどうでしょう? 

一般の認知度は低くても、熱いファン層が存在します。

昭和プロレスが巨大帝国の王朝物語ならば、令和プロレスは小国の王たちの群像劇。

昭和型「帝国モデル」令和型「小国モデル」
構造絶対的スターを頂点に、団体が物語を支配観客は感性で推しを選び、コミュニティを形成
価値ベビフェイスとヒールの役割が明確境界が曖昧。多様で複雑なキャラクター

ファンは、“好きか?嫌いか?”で、王国を選び、住人(ファン)になる。 これが、今のプロレスの現在地であり、推し消費の構造そのものです。

終わりなき消費の最適解

従来のマーケティングは「市場シェアNo.1」を目指すゴール志向。

そして、推し消費(推し活)は、趣味の世界に留まりません。

お客様は、その瞬間を愉しむために複数の推しを持ち、ライフイベントごとに新しい魅力の発見を求めます。

  • AI:Gemini、ChatGPT、Copilotを一択でなく目的によって使い分ける
  • コーラ:王道のコカコーラだけでなく、ニッチなクラフトコーラも選ぶ

一強・マス志向から、多様性・推し活志向への変化に注目。

変化の要素旧マーケティング新マーケティング
目標市場シェアNo.1、業界の頂点個々に熱狂的ファンを創出、熱狂の深さを追求
ベネフィット平均的で誰にでも受け入れられる品質特定層に深く沁みる個性
戦略ピラミッド構造、トップ製品に集中ポートフォリオ構造、多様なニーズに対応

変化に対応するため、いま企業が磨くべきは3つの要素です。

  1. 「万人に好かれる」よりも「一部に熱狂される」:ニッチな層に深く響かせ、強力な支持基盤を構築する
  2. ストーリーを磨く:製品の背景にある物語で感情的な差別化につなげる
  3. 「推しポイント」を作る:みんなに語りたくなる個性で持続的な利益を生む

ブランドが「絶対的な正解」を提示する時代は終わり。いまや、お客様自身で「自分の正解」を見つける時代です。

だからこそ企業は、誰かの心に深く沁みる物語を紡ぐことが不可欠です。

参考文献
 

西口一希『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)