花森安治(1911-1978)
『暮らしの手帖』創刊者、グラフィックデザイナー、コピーライター
国民雑誌『暮らしの手帖』創刊
『暮らしの手帖』は、1948年に花森安治と大橋鎭子(1920-2013)によって創刊された国民雑誌です。この雑誌は新しいライフスタイルの提案やおしゃれなデザインで人気を博し、国民雑誌として広く知られるようになりました。
『暮らしの手帖』の名物コーナーとして知られる「商品テスト」は、同じカテゴリーの商品の優劣をテストすることにより、消費者に商品選択肢の情報を提供するマーケティングの重要な要素となりました。
「商品テスト」は誰のため?
花森安治は創刊から、10年後の1969年に発刊された記念すべき第100号に「商品テスト入門」を寄稿し、その中でスタート当初の目的を振り返ります。
商品テストは消費者のためにあるのではない。
暮しの手帖 第100号
「商品テスト」は、単に消費者に良い商品を紹介する企画ではなく、企業に良い商品を作って貰うための「商品テスト」として構想されました。
メーカーが、役にもたたない品、要りもしない品、すぐこわれる品、毒になる品を作らなければ、そういうものを問屋や小売店が、デパートやスーパーマーケットが売りさえしなければ、それで事はすむのである。
〜中略〜
なにも賢い消費者でなくとも、店にならんでいるのが、ちゃんとした品質と性能を持っているものばかりなら、あとは、じぶんのふところや趣味と相談して、買うか買わないかを決めればよいのである。
暮しの手帖 第100号
花森と大橋の情熱
「商品テスト」は社会現象になります。この企画で高く評価された商品は売れ、酷評された商品は売れません。
花森安治は、自ら実際に使用してデータを地道に積み上げる厳格で公正なテストを行い、企業から圧力がかからないよう、広告を一切載せない編集方針を貫きます。
彼らの情熱と奮闘により、「商品テスト」は多くのメーカーを動かすことに成功し、商品の改善や新たな商品開発につながりました。
特筆すべきは、1972年のスチームアイロンのテストで、アメリカ製品と日本製品の品質が逆転したことです。日本のメーカーが地道な改良と品質管理に注力した結果、「メイドインジャパン」の印は高品質の象徴として世界に躍進していったのです。
稀代の名編集者
1978年1月14日、創刊から30年に渡り、自ら表紙のイラストから執筆、レイアウトを手掛けながら『暮らしの手帖』を100万部という部数の雑誌に育て上げたカリスマ編集者、花森安治は、世を去ります。
花森安治と『暮らしの手帖』が日本の消費文化に及ぼした影響は計り知れないものがあります。
彼の提言は消費者の生活視点だけでなく、メーカーや販売者の立場も理解したものであり、現在でも“花森の精神”は生き続けています。
- 花森安治『灯りをともす言葉』(河出書房新社)
- 酒井寛『花森安治の仕事』(暮らしの手帖社)
- 津野梅太郎『評伝花森安治』(新潮社)
- 山田風太郎『人間臨終図鑑』(徳間書店)