日本人の暮らしを変えたカリスマ編集者 花森安治

花森安治(1911-1978)

暮らしの手帖』創刊者、グラフィックデザイナー、コピーライター

国民雑誌『暮らしの手帖』創刊

“商品テスト”とは、ある商品が効能通りの機能を持っているか?使いやすいか?適正な価格か?など、同じカテゴリーの商品の中での優劣をテストすることにより、消費者に商品選択肢の情報を提供するマーケティングの中の重要な要素の一つです。

1948年、花森安治と大橋鎭子(1920-2013)により『暮らしの手帖』が創刊されます。新しいライフスタイルの提案、おしゃれなデザインで、国民雑誌となりました。創業時からの軌跡を描いた高畑充希(1991-)主演の2016年のNHK 連続テレビ小説『とと姉ちゃん』でお馴染みですね。

『暮しの手帖』の名物企画が1954年から始まった“商品テスト”です。当時は貴重品であった靴下に始まり、アイロンやトースター、ミシン、ベビーカー、炊飯器、洗濯機、電球などの商品や銀行、宅配便、コンビニエンスストアのサービスなど2007年まで約250種の“商品テスト”を行われました。

“商品テスト”は消費者のためにあるのではない

商品テストは消費者のためにあるのではない

と、花森安治は、第100号の「商品テスト入門」で主張しました。消費者に良い商品を紹介する企画ではなく、企業に良い商品を作って貰うための“商品テスト”なのです。

メーカーが、役にもたたない品、要りもしない品、すぐこわれる品、毒になる品を作らなければ、そういうものを問屋や小売店が、デパートやスーパーマーケットが売りさえしなければ、それで事はすむのである

と綴ります。さらに

なにも賢い消費者でなくとも、店にならんでいるのが、ちゃんとした品質と性能を持っているものばかりなら、あとは、じぶんのふところや趣味と相談して、買うか買わないかを決めればよいのである。

“商品テスト”の存在理由を

そんなふうに世の中がなるために、作る人や売る人が、そんなふうに考え、努力してくれるようになるために、そのために〈商品テスト〉はあるのである。

花森安治は、“商品テスト”のスタートから一貫して信念を貫きます。

メーカーを動かした花森と大橋の情熱

“商品テスト”という企画を通して、これまで花森は誰も手掛けたことがない、新しい領域を切り開きます。“商品テスト”は社会現象になり、この企画で高く評価された商品を売れ、酷評された商品は売れません。

商品テストを失敗したら、暮しの手帖社はつぶれる。人さまが命がけで作っている物を、いいとか、わるいとか批評するのだから、こちらも全力でやるんだ

花森安治と大橋鎭子らスタッフは覚悟をして”商品テスト“に取り組みます。自ら実際に使用してデータを地道に積み上げる厳格で公正なテストを行い、企業から圧力がかからないよう、広告を一切載せない方針を貫きます。

「少しでも、よい商品を作ってほしい、それが、この“商品テスト”の願いだ」という花森たちの情熱は、メーカーを動かします。大手メーカーは”商品テスト“の結果を前向きに捉え、欠点を改善し性能の向上、新たな商品開発へと繫げます。

日米対決と“メイドインジャパン”という称号

現在では信じ難い話しですが、日本製品といえば品質・機能とも外国製品より劣り、“メイドインジャパン”は粗悪品の代名詞でした。

1972年、過去2回の“商品テスト”で酷評されたスチームアイロンのテストはアメリカ製品と日本製品の品質が逆転していく証明になりました。

アメリカの代表的メーカー、GE製の複数のスチームアイロンから蒸気が発生しませんでした。この時代からアメリカ製品と日本製品の評価が大きく逆転します。

日本のメーカーが地道に改良を重ねたことと行ったことと、品質管理に注力した結果です。「よい商品を作って欲しいという」という花森の思いが実を結びます。日本は、高度経済成長の波に乗り、終身雇用制度という日本型経営は、優秀な技術者を育成し、大量生産・大量消費と品質管理を両立させました。“メイドインジャパン”の印は、高品質の証しとなり日本企業は世界に躍進します。

稀代の名編集者

ぼくはペンの力で「当たり前の暮らし」を守る

1978年1月14日、創刊から30年に渡り、自ら表紙のイラストから執筆、レイアウトを手掛けながら『暮らしの手帖』を100万部という部数の雑誌に育て上げたカリスマ編集者、花森安治は、世を去ります。亡くなった後も、花森の部屋は生前のままにして、いつ「彼が帰ってきてもいいように」と鉛筆も削って並べられました。

消費者の生活視点のみならず、マーケティングに携わるメーカーや販売者の立場を理解した温かく厳しい提言は、2020年には『花森安治選集』が刊行されるなど、現在も“花森の精神”は、生き続けています。

参考資料
 

花森安治『灯りをともす言葉』(河出書房新社)

酒井寛『花森安治の仕事』(暮らしの手帖社)

津野梅太郎『評伝花森安治』(新潮社)

山田風太郎『人間臨終図鑑』(徳間書店)