ダニエル・カーネマン(1934-)心理学者
エイモス・トヴェルスキー(1937-1996)心理学者
「人間の意思決定は本当に合理的なのか?」
消費者を理解するには、まず人間の心理について知らなければなりません。『行動経済学』には「人はなぜそれを買うのか?」、「どうすれば買ってもらえるのか?」を追求するマーケティングに今日からすぐに活かせる知見が多くあります。
「人間の意思決定は本当に合理的なのか?」を追求し、人間の直感は間違うことを明らかにし『行動経済学』という学問を確立させた人物がイスラエル出身のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの2人です。
2人は戦争により極限状況を体験しています。カーネマンは戦争中にナチスのユダヤ人狩りを生き延び、トヴェルスキーは落下傘部隊に志願し実戦で生か死かの命懸けの選択下に身を起きます。「誤った判断」は、死に直結する世界での体験が経済学の概念を塗り替えた研究の根源であるのかもしれません。
マーケティングに応用された数々の理論
研究者となった2人は、縁あって1969年から共同研究をスタートさせます。
人が「損をしたくない」という感情を第一に意思決定を行う『プロスペクト理論』、意思決定をする時にステレオタイプや自分の経験則を用いて判断する『ヒューリスティック』、説明の仕方次第で選択が変わる『フレーミング効果』など人間の不合理な行動を理論化します。
これらの2人の共同研究は、人間は合理的な行動を取ることが前提である経済学やマーケティング理論に一石を投じました。
世の中には物が溢れ企業視点での施策がうまく機能しない昨今、『行動経済学』を元に、人の誰もが持つ不合理な心理特性を活かした手法が編み出されています。
エイモスの死とカーネマンの栄光の裏
「人は感情で動く」。このことを一番理解しているはずのカーネマンは自ら感情の虜になってしまいます。業績が評価されるのは、社交性の高いエイモスです。カーネマンは徐々にこの評価の違いをカーネマンは容認できなくなります。やがて2人は共同研究をやめることで合意します。ところがその直後にエイモスが末期ガンに冒され余命数カ月と宣告され、残された時間を2人で過ごします。
2002年、ダニエル・カーネマンはノーベル経済学賞を受賞します。本来ならトヴェルスキーも一緒に受けたはずです。受賞を機に称賛の声がカーネマンに降り注ぎます。エイモスに対する言いようのない複雑な感情が、ロヴェルスキーが亡くなった後も、カーネマンにはあるかもしれません。
2011年、ダニエル・カーネマンは、その後の研究の成果をまとめたトヴェルスキーへの献辞を記した『ファスト&スロー』を発表しました。2021年には『ファスト&スロー』で著した個人の意思決定のミスから一歩進めて組織で発生する意思決定や判断のばらつきを論じた『NOISE』を出版し話題を呼んでいます。
- マイケル・ルイス『かくて行動経済学は生れり 後悔の経済学 世界を変えた苦い友情』(文藝春秋)
- ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(早川書房)