マーケティングに影響を与えた『行動経済学』を生んだ2人の天才

「人間の意思決定は本当に合理的なのか？」

「なぜお客様はこの商品を買うんだろう？」、「どうすればもっとお客様に買ってもらえるかな？」とかマーケティングの悩みを解決するヒントが詰まった学問があります。

お客様の心をグッと掴むには、まず人間の心の動きを知ることが大切ですよね。これが行動経済学です。

この行動経済学を世に送り出したのが、イスラエル出身のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーという2人の天才です。

2人は「人間って本当に合理的に物事を決めてるの？」という疑問を徹底的に追い求め、「人間の直感は間違えることもあるんだ！」という、それまでの常識をひっくり返すような発見をしたんです。

なぜ彼らがそんな研究にたどり着いたのか？その背景には、衝撃的な体験がありました。

カーネマンは、第二次世界大戦中にナチスからユダヤ人狩りを逃れて生き延びました。

一方のトヴェルスキーは、落下傘部隊に志願して、まさに生死を分けるような極限状況を何度も経験しています。

こうした命がけの体験が、彼らが後に経済学の常識を塗り替える研究をする原点になったのかもしれませんね。

マーケティングに応用された数々の理論

研究者になったカーネマンとトヴェルスキーは、運命に導かれるように1969年から一緒に研究をスタートさせました。

当時の経済学は、「人間はいつでも理屈に合った行動をするものだ」という考え方がベースでした。しかし、彼らの共同研究は、この常識に真っ向から勝負を挑んだんです。

彼らの研究からは、「え、それって私のこと！？」と思ってしまうような、人間のちょっとおかしな行動をズバリ言い当てる面白い理論がたくさん生まれました。

• 「損をするのはイヤだ！」という気持ちが、私たちが何かを決める時に一番に働くことを明らかにしたプロスペクト理論
• 何かを決めるときに、ついつい自分の思い込みや過去の経験に頼っちゃう「あるある」を説明するヒューリスティック
• 同じ内容でも、伝え方一つで私たちの選択がコロッと変わってしまうフレーミング効果

これらはほんの一部。2人は、人間が決して理屈だけでは動かないことを、次々と理論として示していったんです。

エイモスの死とカーネマンの栄光の裏

「人は感情で動く」　このことを誰よりも深く理解していたはずのカーネマン。しかし、カーネマン自身が感情の渦に巻き込まれてしまうことになります。

共同研究の成果が評価される時、なぜか人付き合いが上手なエイモスばかりが注目されることが多かったんです。

カーネマンは、徐々にこの評価の差を受け入れられなくなっていきます。そして、ついに2人は共同研究をやめることに同意しました。

ところが、その直後に悲劇が訪れます。エイモスが末期がんで余命わずかだと宣告されたのです。残されたわずかな時間を、2人は再び一緒に過ごしました。

時は流れ2002年、ダニエル・カーネマンはノーベル経済学賞を受賞します。本来なら、エイモス・トヴェルスキーも一緒にこの栄誉を受けるはずでした。

受賞を機に、今度はカーネマンには世界中から称賛の声が降り注ぎます。

エイモスが亡くなった後も、カーネマンの心の中には、彼に対する何とも言えない複雑な感情が残っていたのかもしれません。そんな思いを形にしたのが2011年に発表した『ファスト&スロー』です。

この本には、その後の研究の成果がまとめられているだけでなく、エイモスへの心からの献辞が記されています。

2人の研究は、あなたが自分自身の行動や周りの人々の心を理解する上で、本当に大きなヒントを与えてくれます。