差別化によるポジショニング
ネット書店との差別化
「あれっ、前ここに本屋があったのに」
街を歩いていると、書店の閉店を目にしますね。ネット書店の台頭で、書店の閉店が相次いでいます。
書店調査会社アルメディアによると、全国の書店数は、2000年の21,654店から2019年は11,416店に減っています。
危機感を抱く書店は、売り方を工夫することで、ネット書店との差別化を図り、本を読むことの愉しさを消費者にアピールしています。
人気書店では、書店員による手描きPOPや著者によるPOP、力の入った特集コーナーなど趣向を凝らしたアプローチを見かけます。
“カリスマ書店員”がプッシュすることで無名の著者の本が一躍ベストセラーになることもあります。
消費者と直接顔を合わせて、接点を持てる“場“を持っていることがリアル書店の最大の強みです。
入場料を払う書店『文喫』
世の中には様々な書店が存在します。
あらゆる分野の本を揃えた“じっくり散策のできる大型書店”。
『本のソムリエ清水克衛』が運営する書店のような“こだわりのおすすめ本を紹介する書店”。
『ヴィレッジヴァンガード』のようなライフスタイルを提案する“セレクトショップ型書店”や、『TSUTAYA』のように本を読む空間を提供する“カフェとの複合店舗”など。
さまざまな業態の書店が存亡を掛けて凌ぎを削る中、“入場料1,500円を払って本と出会うための本屋”という新しいコンセプトを掲げる書店が2018( 平成30)年6月、六本木にオープンしました。
スマイルズが運営する『文喫』です。時には、入場規制を行うほどの盛況です。
なぜ本好きは、入場料1,500円を払ってでも『文喫』に行くのか?
『文喫』を立ち上げたスマイルズの野崎亙(1976-)は、著書『自分の欲しいものだけを創る!』の中で
“あの本と偶然に出会い、あの本と恋に落ち、あの本が忘れることができない価値となる。文喫はそのような場所でありたい”
と著しています。
『文喫』にある、他の書店では置いていないような、個性的な約30,000冊の本という“商品”は魅力の一つです。
本が好きな人は、入場料1,500円を払ってでも本との出会いによって得られる“体験”を求めています。
普段、本を読まない人も「えっ入場料1,500円⁉︎でも面白そう」とテーマパークに行く気持ちで『文喫』に足を踏み入れたら素晴らしい体験が待っているかもしれません。
消費者の感情に向けた視点
「いつもの書店で買う」「あの書店員さんだから行く」とファンになってもらうには、どうすればよいでしょうか?
ネット書店や他のリアル店舗との違いをく“規模や品揃え”などの「機能面」ではなく、消費者が抱く“どのような体験や喜びがあるのか?”という「情緒面」で差別化を図ることが求められています。
強いポジショニングとは?
何よりも消費者視点
書店界に限らず、消費者は商品の性能やデザインなどの機能の先にある心の満足を求めています。
あなたの会社の商品が、消費者にとって、代替が効かない唯一無二の存在として、生活の一部になることが、ポジショニングの目的です。
強いポジショニングを築くには、消費者から見たニーズを明確にすることです。
本と一緒に売るものは?
書店界には、メディアに取り上げられるカリスマ書店員が登場し、毎年4月に発表される書店員が選ぶ「本屋大賞」も定着しました。
2019(令和元)年9月には、書籍や文具をメインとする台湾の人気セレクトショップ 『誠品生活』の第1号店が東京・日本橋にオープンしました。Amazonのリアル店舗『amazon books』の日本進出も噂されています。
リアル書店でしかできないイベントを定期的に開催し、書店と消費者との双方向のコミュニケーションを取るなど、“本を軸にコトを売る”が生き残る道の一つです。
常に消費者視点を見失わず、新しい体験価値を創造できるかどうかが、これからの勝負の分かれ目となりそうです。
野崎亙『自分の欲しいものだけを創る!』(日経BP社)
西口一希『顧客起点マーケティング』(翔泳社)
佐藤義典『ドリルを売るには穴を売れ』(青春出版社)
日本経済新聞、朝日新聞、東洋経済、週刊ダイヤモンド
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