“クルマを買う”とは「モノ」ではなくて「価値」を買うこと

芥川賞作家

芥川賞作家、クルマを買う

クルマを購入するプロセス自体が体験だ!

人気芥川賞作家、羽田圭介(1985-)のエッセイ「羽田圭介、クルマを買う」には、カーディーラーに足を運ぶまでの心理、試乗、商談、見積り、契約、駐車場探し、車庫証明、納車とクルマ購入のための一つ一つのプロセスが新鮮な体験であることが綴られています。

羽田圭介はカーディーラーに赴き、乗り心地・性能・経済性を比較します。流行作家である著者に対するディーラーのアプローチの方法もさまざまです。

クルマの趣味や走り方は、人間性が現れるものであり、購入することも乗ることも「体験」なのです。

トヨタの“売らない販売店”戦略

トヨタは「INTERSECT BY LEXUS(東京都港区)に続き20183月、「LEXUS MEETS…」を東京ミッドタウン日比谷にオープンさせました。「LEXUS MEETS…」は都心の一等地に商業地域にあります。生活雑貨、カフェとレクサスの展示・試乗が一体となった体験型施設です。

こちらでは展示と試乗だけで営業トークはありません。ブランドを体験してもらいレクサスのあらたなライフスタイルを提案する施設となっています。

レクサスのある生活を体感

 消費者が求めているのはベネフィット

「いつか、あの憧れのクルマを手に入れたい」と、消費者が追い求めてきたのは「モノ」でした。しかし成熟社会を迎え消費者のニーズや価値観が多様化した今日では「モノ」に加えてさまざまな価値を創出していかなければなりません。

高級車市場の変化

近年、消費者に向け商品やサービスの機能的な価値をアピールするだけでは、消費者の評価が得にくくなってきています。

消費者は、高価なモノや他人から羨望を受けるモノを所有することで、自分自身の価値を高めようとする物質主義から、自分の価値観に合う商品やサービスによって得られる自分自身の生活の価値を高める傾向へと変化しているからです。

物質主義から価値志向

消費者は、クルマにステータスを求めるだけでなく、自分のライフスタイルに合ったクルマに乗ることで得られる体験価値を求めているのです。

価値を伝える体験型ディーラー

LEXUS MEETS…」ではレクサスが醸成する世界観を体現し、レクサスという「モノ」を売り込むのではなく、レクサスに乗ることを通じて手に入れられる「体験価値」つまり「ベネフィット」を売っているのです。

モノから体験価値

さらなる感動体験に向けて

「もうこれからは退屈とは言わせない」と、20161月の北米モーターショーで、トヨタ自動車社長の豊田章男(1956-)は力強くメッセージを発信しました。

このメッセージからレクサスは品質や経済性、信頼性などの機能的な価値の訴求から、デザイン性や走りの体感など情緒的な価値の訴求へとシフトしました。

価値訴求の変換

 豊田章男の社長就任から10年目の節目に「クルマに留まらない驚きと感動の提供」という新たなテーマのもと、誕生したラグジュアリーヨット「LY650」も話題を呼んでいます。

 羽田圭介の購入したクルマは?

レクサスに2回試乗した羽田圭介。ポルシェ愛溢れる起業家を描いた小説「ポルシェ太郎」も評判です。果たして彼の購入したクルマは?

参考文献

羽田圭介「羽田圭介、クルマを買う」(集英社)

井元康一郎「レクサストヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか」(ダイヤモンド社)

佐藤義典「ドリルを売るには穴を売れ」(青春出版社)

日本経済新聞、東洋経済、週刊ダイヤモンド 2015年~トヨタ関連記事