70年後の「やってみなはれ」4P&4Cで見る『ハイボール復活プロジェクト』

マケの門

顧客体験をベースにしたマーケティングには4P&4C戦略が不可欠です。あなたもご存知の空前のハイボールブームを例に、4P4Cのポイントが7分で読めます。

”体験“そのものに絞り込んだプロモーション

キーワードは、どんな料理にも合う『角ハイボール』

サントリーの創業者 鳥井信治郎(1879-1962)は、日本にウイスキー文化を根付かせました。しかし時の趨勢とともに、ウイスキー市場は80年代に頂点を極めた後、メイン消費層の高齢化や若年層のウイスキー離れにより縮小します。

信治郎の孫 佐治信忠(1945-)は、祖父が生んだ『角瓶』発売70年を迎えた2008年に、ウイスキーの復活を賭け『ハイボール復活プロジェクト』に挑みます。

ウイスキーの需要喚起のための切り札は、どんな料理にもマッチする“ハイボール”。ターゲットは、ウイスキーを飲まない20代から30代の消費者です。

ターゲットには、「とりあえずビール」というマンネリから脱したい願望があります。しかも最初の1杯目から飲めて、食事と一緒に愉しめるアルコール飲料を求めています。角瓶を炭酸で割ったハイボールは、ターゲットの嗜好にぴったりマッチします。

『ハイボール復活プロジェクト』は、ウイスキーを飲む習慣がない人々に、「食事と一緒に愉しむ角ハイボール」という新しい体験を訴求するプロモーションです。

マーケティングの原理原則4P&4C

4P視点で見ましょ。

マーケティングの有名なフレームワークに4Pと4Cがあります。製品、価格、流通、販売促進の要諦を、企業視点の4Pと消費者視点の4Cという双方向から俯瞰し検討できる便利なツールです。 

4Pと4Cを活用すれば、マーケティング施策を実施する上で、「やるべきこと」が明確になり、抜けや漏れを防ぐことができます。

「ハイボール復活プロジェクト」を4Pのフレームに落とし込むと、こうなります。

4Pで見た『ハイボール復活プロジェクト』

Product(製品)角瓶のソーダ割り

Price(価格)ビールより安い

Place(流通)居酒屋、飲食店

Promotion(販売戦略)旬の女優をCMに起用

そもそもウイスキーは、1杯目に「カンパーイ」と賑やかに飲む酒ではありませんし、食事を愉しみながら飲む酒でもありません。

若い世代にとっては、「俺のボトルがあるから」と上司の誘いに無理して付き合った2軒目のバーで、「俺の若い頃は」と過去の成功体験を聞かされながら飲む酒というネガティブなイメージがあります。

Product

ウイスキーを飲んだことが無い世代でも飲みやすいハイボールです。サントリーは濃すぎず薄すぎず日本人の舌に合う絶妙な配合比を編み出します。鳥井信治郎も「これや!この味や」と絶賛することでしょう。

Price

価格はビールよりリーズナブルです。1杯目から何杯でもお代わりができる価格です。

Place

2008年当時は、居酒屋のメニューにウイスキーは少なかったのです。ハイボールは、店にとっても未知の飲み物です。ハイボールの美味しさを知って貰うために料飲店に、地道な説得と営業を重ね、ジョッキ飲みというスタイルの提案や専用サーバーの設置などを店にアピールしました。やがてたこ焼きチェーンの「銀だこ」と組みハイボール専門店『銀だこハイボール酒場』をはじめ居酒屋、立ち飲み店、バルなどに販路を開拓し“体験する場所”を拡大しました。

Promotion

石川さゆり(1958-)が歌う「ウイスキーがお好きでしょ」の曲に乗せ、小雪(1976-)菅野美穂(1977-)井川遥(1977-)ら旬の女優が登場するCMを投入します。

4C視点も忘れずに。

市場の主役は消費者です。創業者 鳥井信治郎は、じっくりとお客様を育てて、本物の酒を愉しむ習慣を根付かせることを大切にしていました。

顧客体験を土台にしたマーケティング戦略を成功させるためには、消費者の行動心理を理解することが不可欠です。その手掛かりとなるのが4C視点です。

4Cから見た『ハイボール復活プロジェクト』

Customer Value(顧客にとっての価値)ビール感覚で飲めるし新鮮な体験

Cost(顧客にとってのコスト)リーズナブルな価格、1軒目からウイスキーが飲める

Convenience(顧客にとっての利便性)外でも家でも飲める

Communication(顧客とのネットを駆使した双方向のコミュニケーション

Customer Value

若い世代にはウイスキーを炭酸で割るという飲み方を新鮮に感じます。ジョッキでビール感覚で飲めるのも嬉しい。乾杯もできるし、仲間で飲むもよし、ひとり飲みもよしのハイボールです。

Cost

時間もコストの内です。若い世代にとって苦痛に感じるひとときである上司に2軒目のバーに無理やり付き合わされる時間から解放されます。ウイスキーには糖質が含まれていない上にプリン体が少ないので身体のパフォーマンス低下や体調不調で失うコストを軽減できます。

Convenience

ハイボールは、飲む場所を選びません。外でも家でも気軽に飲めます。ひと手間かければ自分で“ハイボールを作る体験”ができます。

Communication

2008年当時のインフルエンサーはブロガーでした。「ハイボールナイト」などのイベントを開催しその体験談をブログで紹介する取り組みを実施しました。現在もハイボールに合うおかずのレシピ紹介などネットを活用しています。

4Pだけでは、生まれなかったかもしれない大ヒット商品

ハイボール作りましょ。

井川遥に「ハイボール作りましょ。」と言われたら、ハイボールを作ってみたくなります。動画を観ながら、少しの手間でハイボールが愉しく作れ、自宅にいながら“ハイボール体験”ができます。

ところが「作るのが面倒」とか「瓶を購入してまで飲まない」「ボトルで買っても飲みきれない」という消費者層が存在します。4CのCostとConvenienceから、新たな消費者のニーズが浮かび上がります。

4Cから浮かび上がった消費者ニーズ

Cost:作るのが面倒ボトルで買っても飲みきれない

Convenience:家でも角ハイボールを気軽に愉しみたい

2009年にサントリーは、『角ハイボール缶』を発売し、大ヒット商品になります。居酒屋で空前のブームを呼んだハイボールは家庭へと舞台を移します。ハイボール缶を冷蔵庫で冷やして氷を入れるだけでそのまま飲むことができます。

2009年10月にコンビニで限定発売された角ハイボール缶は、全国発売を開始した2010年に270万ケースを売上げ、2011年には対前年比157%を記録しています。

「新しい飲み方の体験」というコトを求めていた人々

企業の4P視点だけで捉えていたら、消費者の悩みや要望が抜け落ち大ヒット商品「角ハイボール缶』は生まれなかったかもしれませんし、プロジェクトそのものが、角瓶の歴史や蒸留過程のこだわりを語る、単に角瓶というモノを訴求するプロモーションに終わっていたかもしれません。

人々は「角瓶」というモノではなく「新しい飲み方の体験」をするコトを求めていたのです。